http://www.hokkoku.co.jp/jisyoh/hjisyoh.htm - May 24, 2012 4:49:08 AM - Dec 5, 2004 2:53:59 AM
2012年5月24日
家を出れば七人の敵(てき)がいるという。具体的にどんな敵か決まっているのではなく「世の中には大変なことが多い」の例(たと)えである東京の駅構内(えきこうない)で「肩(かた)がふれた」ていどのトラブルで見知らぬ相手から刃物で刺される事件が起きたことを知れば、都会暮(とかいぐ)らしの「敵」の多さに背筋(せすじ)が寒くなる。口論(こうろん)ならまだしも、突然、ナイフが出てくるのだから大変だ
思い当たることがある。出張などで東京に行くと「あれっ」と思うことが少なくない。電車の乗(の)り降(お)りや食堂の出入りですれ違う際(さい)、誤(あやま)って体がぶつかるとにらまれるのだ。地方の街なら「ごめん」「すみません」ですむのが、完全にけんか腰(ごし)だ
それも、見るからに怖(こわ)い人ではなくて普通のサラリーマン姿なのだから戸惑(とまど)う。大都会の混雑(こんざつ)からくるストレスや満員電車のイライラといったレベルの話ではない。普段(ふだん)から刃物を持ち歩く必要がどこにあるのだろうか。どうしてこんなとげとげしい気分になってしまったのだろうか
「八人目の敵」が、ゆとりのない自分の中にもいるのだろうか。容疑者(ようぎしゃ)は逮捕されたが、心の底(そこ)にたまる疑問はとけない。
2012年5月23日
エッフェル塔(とう)が建てられた時、パリっ子からぼろくそに言われたのは有名な話である日本の京都タワーしかり。長く古都(こと)の恥(はじ)と言われ続けた。塔に似た金沢の尾山神社神門(おやまじんじゃしんもん)が登場した明治期の人々の反応(はんのう)も同じだった。「壊(こわ)してしまえ」との声が強かったという。それがどうだ。今はすっかり馴染(なじ)んで、街のシンボルになっている
塔は伝統を破壊(はかい)する代物(しろもの)として見られることが少なくなかった。平らな都市の「出る杭(くい)」であり、世間(せけん)に打たれる宿命(しゅくめい)を背負っていた。だが、東京スカイツリーは別のようにみえる。計画発表時から期待(きたい)され、日々人気が高まった。なぜだろう
どの塔にも、時代を開く覚悟(かくご)が込められている。エッフェル塔も京都タワーも尾山神社神門も同じだ。その覚悟が風雪に耐(た)え、時とともに美しくなった。スカイツリーは古今東西の塔の遺産(いさん)の上に建っている。日本独自の五重塔の構造(こうぞう)を持ち大震災(だいしんさい)の揺れにも耐(た)えた信頼感がある
だから好感をもって迎(むか)えられているのではないか。昔からそこにあったような顔をして登場した不思議(ふしぎ)な塔だ。200年、300年後の姿を見てみたい。
2012年5月22日
「さまざまなこと思い出す桜かな」。なぜか季節外(はず)れの一句(いっく)が浮(う)かぶ朝だった早起きして自宅前で日食を見た。見知らぬ小学生があいさつをして通り過(す)ぎた。普段(ふだん)そんな通学時間帯(つうがくじかんたい)の光景(こうけい)を見ることはない。だが、登校する子どもの姿が普通であり、その時間に寝(ね)ている方がおかしいことに思いがいく
太陽と月と地球が直線に並(なら)んだ偶然(ぐうぜん)から起(お)きる日食は「永遠(えいえん)と一瞬(いっしゅん)」を切り取って見せる天体ショーだった。次に日食が起きる遠い先を思う。明日(あした)のある子どもと、残り時間が少ない中年おやじの命が偶然すれ違ったのも日食のおかげだった
輝(かがや)く太陽と光を隠(かく)す月。二つを見ているとどちらがどちらか分からなくなった。太陽と月は男と女に例えられる。これもどっちがどっちだろう。女性が太陽になるケースが多い。きのうは「金環(きんかん)」にちなんで多くの恋人たちが指輪(ゆびわ)の交換(こうかん)をしたという。円満な家庭(かてい)は太陽と月の合作(がっさく)だ
三十数前に指輪を交わした、わが家の「太陽」は今も日々輝き?を増(ま)している。日常の中にドラマは潜(ひそ)む。家庭は壮大(そうだい)な宇宙かもしれない。さまざまなことを思う日食だった。
2012年5月21日
きょうは空を見上げて、「残念だな」とつぶやく日。あいにく北陸では金環食(きんかんしょく)が見られない部分日食でも天体ショーは楽しめる。太陽が欠けると薄暗くなり、肌寒(はだざむ)さも覚える。「日の恵(めぐ)み」の大切さが分かる。西から上がったお日さまが東に沈む、という歌があった。「それでいいのだ」と続くが、断じてよろしくない
列島で次に金環食が見られるのは2030年、その5年後には富山で皆既(かいき)日食が観察できるという。遠い空、遠い先の出来事をピタリと当てる科学の力はすごい。それ以上に、寸分の狂いなく動き続ける天体の方がすごい。軌道(きどう)がぶれないから、23年後の皆既日食の楽しみや、「観察はあの世で」という覚悟(かくご)が生まれる。
下界(げかい)の方は、大いにぶれる。2年後に8%、その後に10%という消費税の筋書きも、どうなることか。賛否両論の騒々しさが、いまはシラーっとした空気に変わった。国のかじ取りを託した連中が、かくも迷走(めいそう)していれば、それも不思議なことではない
遠い先の皆既日食は言い当てられるが、2年後の増税のことは分からない。はて、私たちはどこまで賢(かしこ)いのだろう。
2012年5月20日
英国のエリザベス女王即位(そくい)60年を祝う昼食会に、スペインのソフィア王女が欠席したスペインは英国領ジブラルタルの領有権(りょうゆうけん)をめぐってイギリスと300年も争っている。その紛争(ふんそう)が欠席の背景にあるという。日本からは、天皇・皇后両陛下が訪問して祝福ムードばかりが伝わってきたが、その式典の中に欧州(おうしゅう)の光と影を見た思いである
折(おり)も折、1611年にスペイン国王が徳川家康(とくがわいえやす)に贈った時計が静岡県に保存されていて、大英博物館(だいえいはくぶつかん)の専門家が「16世紀の最高傑作(さいこうけっさく)」と折(お)り紙をつけたとの記事があった。鎖国(さこく)以前の徳川幕府(とくがわばくふ)が房総沖で難破(なんぱ)したスペイン船を救助したお礼の品だそうだ
西暦1600年前後の出来事では1588年のスペイン無敵艦隊(むてきかんたい)の敗北が有名だ。勝ったのはイギリス海軍。15世紀に始まる大航海時代(だいこうかいじだい)は植民地争奪戦(しょくみんちそうだつせん)の幕開(まくあ)けだった。東と西の文明が接近し、キリシタン文化が金沢や高岡に届いたのもこのころだ
スペインが水をさしたとは言うつもりはない。英女王の祝い事から世界史を学んだ。人と人は交流しても国家間で戦争を繰(く)り返す政治を考えることにもなった。
2012年5月19日
外国人初の直木賞作家(なおきしょうさっか)で実業家(じつぎょうか)、経営(けいえい)コンサルタントでも知られた邱永漢(きゅうえいかん)さん(88)が亡くなった。台湾(たいわん)の台南(たいなん)出身である肩書(かたが)きが多すぎて、お金に強いイメージから日本の一部の作家からは嫌(きら)われたという。が、忘れてならない作品がある。1959(昭和34)年の文藝春秋(ぶんげいしゅんじゅう)4月号に掲載(けいさい)した「台湾の恩人(おんじん)・八田技師(ぎし)」がそれだ
終戦で消えかかっていた金沢出身の土木技師・八田與一(よいち)の功績(こうせき)に光をあて、一地方の英雄(えいゆう)を日本史の中に位置づけた最初の文ともいわれている。副題(ふくだい)が「この人のことを知って欲しい」。作家の思いがずばり表れている
その後、司馬遼太郎(しばりょうたろう)さんが1993(平成5)年の「台湾紀行(たいわんきこう)」で八田技師を取り上げ、より広く知られるようになった。「八田技師を知ってほしい」との思いから続けられていた台湾や金沢の人たちの地道(じみち)な交流も、これら著名(ちょめい)作家の作品に勢(いきお)いを得てまた盛(さか)んになった
城の石垣は大きな石と小さな石が補完し合って風雪に耐(た)えている。大小どちらも大事なのだ。偉人の足跡(そくせき)や忘れてはならない歴史は、そうして今に伝わり後世(こうせい)に残っていく。
2012年5月18日
毒性(どくせい)の鳥インフルエンザウイルスが、ほ乳類同士で感染(かんせん)する仕組(しく)みを東大教授が解明(かいめい)した。そこまでなら学術ニュースだが、世界的な科学雑誌(かがくざっし)に載ることになって軍事問題(ぐんじもんだい)になった米政府が公表に待ったをかけていたからである。研究の詳細(しょうさい)を手に入れたテロリストが生物兵器(せいぶつへいき)をつくる恐(おそ)れがあるとの理由だ。科学者側は早く公表すれば、ワクチンが開発(かいはつ)され人類のためになると主張、意見が割(わ)れていた
核開発(かくかいはつ)やダイナマイト発明の例をあげるまでもなく、科学には功罪(こうざい)二つの側面がある。科学が悪用されることはしばしばあった。今回はそれが分かりやすい形でニュースになったのだ
金沢21世紀美術館で「世界を変えた書物(しょもつ)」展を見た。中世の活版印刷(かっぱんいんさつ)に始まる貴重本が展示(てんじ)されている。企画した竺覚暁(ちくかくぎょう)金沢工大ライブラリーセンター館長が本紙で「科学技術はその意図(いと)にかかわらず害(がい)を成すこともあるし悪用されることもある」と書いていたのを思い出す
薬なのか毒なのか、判断は難(むずか)しく価値観(かちかん)も時代で変わる。福島原発の惨状(さんじょう)を見てそう思う。志賀原発からの避難計画(ひなんけいかく)を読みながらそう考える。
2012年5月17日
「五月蠅」と書いて「うるさい」と読む。きのうの漫画「ヒラリ君」で、おばあちゃんに教わった。「なるほど」とヒザを打つ人も、クビをかしげる世代も多いだろう歳時記(さいじき)にハエは夏の季語(きご)とあるが、あまり見掛けなくなった。ハエには悪いが、寂しくも悲しくもない。人里離れた所で、ひそかに生き延びてほしいと願う
ハエも人間に閉口(へいこう)しているかもしれない。「寝(ね)にもどるのみのわが部屋生くる蠅(はえ)つけて蠅取紙(はえとりがみ)ぶらさがる 寺山(てらやま)修司(しゅうじ)」。蛇足(だそく)だが、ハエ取り紙とは必殺ネバネバ生け捕(ど)り兵器のこと。こんな姿を詠(よ)まれては、ハエも生きる意欲が薄れよう
「やれ打つな蠅が手をすり足をする」。小林(こばやし)一茶(いっさ)の句を知って、何と心の優(やさ)しい人かと驚いた。やがて、人間とは建前(たてまえ)と本音(ほんね)を使い分ける生き物であると学んだ。一茶のことは知らないが、美しい言葉で裏腹(うらはら)な心を装(よそお)う人はいくらもいる
きょうから消費税増税法案の本格審議が始まる。国家の一大事と身構えるのは建前。腹に一物(いちもつ)ある連中が敵味方入り乱れて足を引っ張る姿が想像できる。ハエは消えても、五月は「うるさい」時節のようである。
2012年5月16日
「高峰桜(たかみねざくら)」里帰りの記念の日に、別の「ワシントンの桜」を思った。米国初代大統領が少年時代に桜を切ったという話。正直に告白し、父親から褒(ほ)められたといういま思うと、いささかおかしい。木を切って知らん顔では困る。告白(こくはく)、謝罪(しゃざい)は当たり前。父親も褒める前にガツンとやるのが愛情ではないか。よく分からぬ逸話(いつわ)だが、実は高峰桜に役立っていたことを知った。当時のことを調べた藤崎(ふじさき)一郎(いちろう)駐米大使が、本紙が加わるニュースサイト「47NEWS」に寄稿(きこう)している
最初に贈られた苗木(なえぎ)は病害虫が見つかり、焼却(しょうきゃく)された。贈り主のメンツは丸つぶれ。反発を心配した米国側に、日本側は見事なユーモアで応じ、相手をほっとさせた
「貴国(きこく)には大統領自ら桜を処分する伝統がありますからね」。人間の器(うつわ)と相手に対する敬意が、厄介事(やっかいごと)を上手に裁(さば)く。人間関係も国の外交も、そうかもしれない
中国のトキを思う。日中韓首脳会談で、トキ寄贈が決まるという話が事前にあったが、何やら横ヤリが入ったそうな。高峰桜は善(よ)き人々に恵まれた。トキ繁殖(はんしょく)を阻(はば)む厄介な敵も、やはり人間か。
2012年5月15日
ロンドン五輪代表が次々と決まり、うれしいことに県出身者やゆかりの選手が名を連ねる。ウエイトリフティング、柔道と代表が決まり、東京五輪の懐(なつ)かしい場面が浮かんだウエイトリフティングは、テレビの白黒画面で初めて知った。心を集中させる静かな時間が気合とともに破れ、一瞬で勝負が決まる。究極(きゅうきょく)の力自慢の争いは、映画で見た剣の達人(たつじん)みたいで、実に格好良かった
柔道では、オランダの大男が日本人を打ち負かした。駆(か)け寄(よ)るコーチを手で制し、乱れた柔道着を整えて折り目正しく試合を終えた。優勝をさらわれた悔しさ以上に、勝者のあっぱれな姿を覚えている
昔話をすると周囲から煙(けむ)たがられるが、青い畳(たたみ)の上も重いバーベル相手の闘いも、かつては筋骨(きんこつ)隆々(りゅうりゅう)たるサムライたちの世界だった。同じ舞台に、いまは愛くるしい女性たちがさっそうと登場する。あのころ、誰がそんな五輪を想像できただろう
年配者は「いまどきの若者は」と嘆(なげ)くのがクセである。だが、例外はいくらもある。いまの五輪選手は、何とさわやかなのだろう。そんな女性選手を何人も応援できる。